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静岡地方裁判所 昭和59年(ワ)356号 判決

原告

玉置千恵子

被告

斉藤曻一

主文

一  被告は、原告に対し、金七六四万五四五七円及びこれに対する昭和五七年一一月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二六九二万四二〇一円及びこれに対する昭和五七年一一月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生とその態様等(以下本件事故という)

(一) 日時 昭和五七年一一月二日午前一〇時二〇分ころ

(二) 場所 清水市天神一丁目七番一三号地先路上(以下本件事故現場という)

(三) 被告車 普通貨物自動車(静岡四〇い八八〇五)

右運転者 被告

(四) 原告車 原動機付自転車(清水市け五二九七)

右運転者 原告

(五) 態様 原告車が本件事故現場を東から西に向けて進行中、原告車の後方を同方向に進行してきた被告車が、原告車を追い抜くと同時に、左折の合図もなく突然左折し、左後輪付近荷台部分を原告車に接触させたため、原告車はその場に転倒した。

(六) 傷害 原告は本件事故により、右側下顎隅角部骨折、下顎正中部骨折、左側上顎歯槽骨骨折、上口唇裂傷等の傷害を負つた。

2  責任原因

被告は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の責任がある。

3  原告の治療経過と後遺障害

原告は、本件事故により、昭和五七年一一月二日から同年一二月一五日まで四四日間入院し、昭和五七年一二月二一日から同五八年一月六日までの一七日間(実治療日数二日)と、同五八年二月一日から同年六月一日までの一二一日間(実治療日数一七日)通院し、自賠法施行令第二条別表の、七級一二号と一二級一二号及び一四級二号(顔貌の変形、知覚鈍麻と三歯以上の歯科補綴)の後遺障害が残つた。

顔貌の変形と知覚鈍麻とは、別々の原因に基づく別々の症状であるから、後遺障害も各別に認定すべきものである。

4  損害

(一) 治療費 一四七万二七八七円

(二) 入院中の雑費 四万四〇〇〇円

一日当たり一〇〇〇円が相当である。

(三) 休業損害 四二万一二五三円

原告は本件事故により、昭和五七年一一月二日から同五八年三月三一日まで八一日間欠勤し、本来の給与が五五万一一〇〇円のところ、一二万九八四七円の支給を受けた。

(四) 入、通院慰謝料 一一四万円

入、通院期間から右金額が相当である。

(五) 後遺障害による逸失利益 一八四九万六一六一円

原告は日額三六七四円の所得を得ていたので、労働能力喪失率を五六パーセント(七級)、就労可能年数を四三年とし、新ホフマン係数二二・六一一を乗ずると一六九八万〇〇八三円となり、さらに一四級の後遺障害の逸失利益(労働能力喪失率五パーセント)も、同様に一五一万六〇七八円となる。

(六) 後遺障害の慰謝料 七三〇万円

5  原告は前記損害に対するてん補として、自賠責保険から、傷害分一二〇万円、後遺障害分七五万円の支払いを受けた。

6  よつて原告は、被告に対し、損害残額二六九二万四二〇一円及びこれに対する昭和五七年一一月三日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告

請求原因1の事実中、事故態様を否認する。

同2の事実を認める。

同3の事実中、入院期間を認め、通院期間は不知。

同4の事実はすべて不知ないし争う。

同5の事実は不知。

2  補助参加人

請求原因事実中、後遺障害の程度を否認する。

原告の顔貌に醜状はなく、七級には該当しない。

原告が一四級の損害てん補を受けたことは認める。

仮に後遺障害が一二級一二号に該当するとしても、継続期間は一〇年間が限度である。

三  抗弁

1  被告

本件事故は、被告車が本件事故現場を東から西に向けて進行した後、縁石の切れ目から歩道上に乗り入れ停車していたところ、原告車が、歩道の縁石に車両左側部分を衝突させ、右側に著しく傾斜し、その結果原告はハンドルから手を放し、車両のみが、歩道上に停車していた被告車の左側面後部に激突したというものであり、原告の自傷行為で、被告にはなんら過失がない。

また被告車にも構造上の欠陥はなく、被告は自賠法三条責任を免責される。

2  補助参加人

被告車が原告車を追い越した事実はなく、原告車は被告車のすぐ左後方を走行していたものであるが、先行する被告車が減速して左側に寄つたにもかかわらず、漫然と直進を続けた結果衝突したものであり、本件事故には原告にも過失がある。

その過失割合は三割を下らない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実をいずれも否認する。衝突地点は車道上であるし、追越された後すぐに衝突しているので、衝突をしりぞけるすべはなかつた。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  成立に争いのない甲第一号証と原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二ないし四号証によれば、請求原因1の(一)、(二)、(三)、(四)、(六)の各事実が認められる。

そこで事故の態様と被告の抗弁について判断する。

成立に争いのない甲第一〇号証、同第一一号証の一、同第一五ないし一八号証、同第二〇ないし二四号証と原告本人尋問の結果によれば、被告が被告車を運転して、本件事故現場を、東名清水インター方面から大和町交差点本面に向かい進行中、道路外の場所に出るため、被告車を道路左側の歩道上に進入させようとしたが、その際左後方の安全を十分確認しないで、左に転把して歩道上に進入したため、被告車左後方を進行してきた原告車に気付かず、原告車に被告車左側後部を衝突させたこと、衝突地点は歩道上ではなく、原告車の進行していた車道上であること、原告車は縁石に衝突した後被告車と衝突したのではなく、被告車と衝突した後縁石に衝突したこと、以上の事実が認められる。

成立に争いのない乙第一ないし一〇号証、甲第一九号証や被告本人尋問結果によつても、右認定を覆すには十分ではなく、その他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると本件事故は、被告が、道路外に進入するため左に転把するに際し、左後方の安全を確認する義務を怠つたため発生したもので、被告には過失があり、免責の抗弁は理由がない。

二  請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

請求原因3の事実中、入院期間については争いがなく、前掲甲第三、四号証によれば、通院期間についても原告主張のとおり認めることができる。

請求原因3の事実中、後遺障害については、原告が一四級二号の保険金の支払いを受けたことは争いがない。

そして成立に争いのない甲第二八号証と弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる丙第一号証の一、二、前掲甲第四号証によれば、原告の後遺障害は昭和五八年一月六日症状固定し(歯科については同年六月一日)、その内容は、右側下顎部の肥大変形、下口唇右側知覚鈍麻、三歯以上の歯科補綴であること、右各症状(肥大変形、知覚鈍麻)は下顎骨骨折と下顎骨骨折を原因とする右側下歯槽神経の機能障害に起因すること、そのため自賠責保険の事前認定により、右各症状を勘案して神経症状として一二級一二号に認定されたこと、結局歯科補綴の障害も加え一二級に認定されたことが認められる。

原告は、下顎部の肥大変形と知覚鈍麻とは原因を異にするとして、変形について七級を主張するが、右各症状が原因を全く異にするとはいえないことは前認定のとおりであり、右各症状を総合して一二級と認定することにも合理性がある。また昭和六二年当時の原告の写真であることが争いのない甲第二五号証の一、二によつても、原告の下顎部の変形が七級に該当すると認めるには十分ではなく、その他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よつて原告の後遺障害は、自賠法施行令第二条別表の一二級に該当すると認めるのが相当である。

三  次に請求原因4(損害)について判断する。

1  治療費 一四七万二七八七円

原告本人尋問の結果により真正したと認められる甲第五、六号証と同本人尋問によれば、原告が治療費として、少なくとも一四七万二七八七円を支出したことが認められる。

2  入院雑費 四万四〇〇〇円

入院期間は当事者間に争いがなく、雑費は一日当たり一〇〇〇円が相当である。

3  休業損害 四二万一二五三円

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第七ないし九号証と同本人尋問によれば、原告の手取給与平均日額は三六七四円であつたこと、事故日から昭和五八年三月三一日までの間、原告は本来五五万一一〇〇円の給与を得られたはずのところ、事故による休業のため一二万九八四七円の給与しか得られなかつたことが認められる。

4  入、通院慰謝料 一一四万円

入、通院期間から右金額が相当である。

5  後遺障害の逸失利益 五一八万三五七九円(円未満切捨て)

原告の後遺障害が一二級に該当することは前認定のとおりであり、労働能力喪失率を一四パーセント、年間給与を二一一万〇二〇〇円(昭和五八年度女子労働者平均)、就労可能年数を四三年(症状固定時二四歳)とし、ライプニツツ係数一七・五四六を乗ずると、右金額となる。

原告の後遺障害一二級には、下顎部変形も含まれているので、労働能力喪失期間としては右年数が相当である。

6  後遺障害の慰謝料 二四〇万円

四  次に過失相殺の抗弁について判断する。

原告は、被告車に追い越された後すぐ衝突したと主張し、原告本人尋問結果中には右主張に添う供述部分があるが、右供述はたやすく採用できない。

そして成立に争いのない甲第一七号証、同第二〇号証と被告本人尋問の結果によれば、原告車に先行する被告車が、衝突地点の約一〇メートル手前で減速し、左へ寄り始めたにもかかわらず、原告は被告車の動向に注意せず、直進を続けたことが認められるから、本件事故発生については、原告にも過失があり、その過失割合は一〇パーセントとするのが相当である。

よつて前記損害額合計一〇六六万一六一九円から過失相殺として一〇パーセントを控除すると、残額は九五九万五四五七円(円未満切捨て)となる。

五  損害のてん補

原告が損害のてん補として自賠責保険から一九五万円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがないから、これを控除すると、残額は七六四万五四五七円となる。

六  以上、原告の本訴請求は、被告に対し、七六四万五四五七円とこれに対する事故発生日の翌日である昭和五八年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林登美子)

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